相談は最多、受け皿はこれから - 道内178市町村のひきこもり支援を数字で見る
札幌市の相談は過去最多3,345件。札幌市を除く道内178市町村では98市町村が1,555人を把握し、64市町村は把握と支援がこれから。入口と受け皿の距離を一次資料で追う。
札幌市のひきこもり相談は2025年度に過去最多の3,345件に達した。同じ市が企業に呼びかけている短時間勤務「ショートタイムワーク」の導入企業は、これまでのところゼロ件で推移している。相談という入口は広がり、その次の受け皿はこれから設計される段階にある。
この構図は札幌市に限らない。北海道が毎年度まとめている調査から、札幌市を除く道内178市町村の状況を追う。
1. 数値で見る現状
ファクト: 令和6年度、札幌市を除く道内178市町村のうち、ひきこもりの人数を実数で把握しているのは98市町村 ( 55.1% ) で、把握された人数は1,555人。支援実績のある市町村は92 ( 51.7% ) 、支援を受けた人は1,088人だった。出典: ひきこもり支援状況等調査 ↗ ・ 北海道 保健福祉部福祉局障がい者保健福祉課
ファクト: 同じ調査で、推計人数まで算出した市町村は30 ( 16.9% ) 、その推計値の合計は5,645人。実数を把握した98市町村の1,555人に対し、推計を出した30市町村だけで3.6倍の人数が見込まれている。ただし推計の対象年齢は自治体によって異なると調査に注記がある。
ファクト: 把握された1,555人の年齢構成は、20代が251人 ( 16.1% ) 、40代が263人 ( 16.9% ) 、50代が246人 ( 15.8% ) 。40歳以上は624人で全体の40.1%を占める。性別は男性987人、女性470人、性別不詳98人。
ファクト: 市町村の状況は4つに分かれる。人数把握と支援実績がともにあるのが76市町村 ( 42.7% ) 、人数把握はあり支援実績はこれからが22 ( 12.4% ) 、人数把握はこれからだが支援実績があるのが16 ( 9.0% ) 、双方これからが64 ( 36.0% ) 。
ファクト: 経年で見ると、把握市町村数は令和元年度の94から令和6年度の98へ、把握人数は1,011人から1,555人へ増えている。
2. 把握のされ方が示すもの
ファクト: 人数を把握した98市町村に把握方法を尋ねた結果 ( 複数回答 ) 、最も多いのは「日々の業務 ( 相談対応、訪問、他部署・機関からの情報提供等 ) で把握」の93市町村。次いで民生委員・児童委員等を対象とした調査が20、関係機関・関係団体等を対象とした調査が14。住民を対象とした調査は、無作為抽出が2市町村、全戸配布は0市町村だった。
推論: 数字の増加は、ひきこもりの人が増えたことを直接示すものではない。把握の主な経路が日々の業務であることを踏まえると、相談窓口や訪問の機会が増えたぶんだけ、見えるようになった人数が増えたと読むほうが自然だ。実数1,555人と推計5,645人の開きも、この読み方と整合する。
ファクト: 生活困窮者就労準備支援事業費等の国庫補助の利用状況は、178市町村のうち令和6年度でサポート事業6件、ステーション事業1件、センター事業2件。令和2年度の1件からは増えている。
推論: 把握の経路が日々の業務に集中していることと、国庫補助の利用が9件にとどまることは、同じ構造の両面と考えられる。専任の体制を置くには財源と人員が要り、それを持たない市町村では既存の業務の中で対応することになる。人口規模の小さい自治体ほど、この制約は強く働く。
3. 論点
中心問い: 相談が届いたあと、その人はどこへつながるのか。
札幌市では相談が3,345件に達し、道内でも1,088人が支援を受けている。入口の数字は積み上がっている。一方で、支援を受けたあとに向かう先 ―― 働く場、居場所、日中を過ごす選択肢 ―― の整備は、行政の計画だけでは完結しない。ショートタイムワークのように企業の参加を前提とする仕組みは、呼びかけと参加の間に距離がある。
仮説: 受け皿の不足は、意欲の問題より設計の問題として捉えるほうが打ち手につながる。週20時間の勤務を1人分用意することは中小企業にとって重い。しかし週3時間の業務を切り出すことは、多くの事業者にとって現実的な範囲にある。単位を変えれば参加できる事業者の数は変わる。
4. 道外・海外の参考事例
東京都江戸川区は2021年に全区民を対象とした実態調査を行い、7,919人のひきこもり状態にある人を把握した。個別のアウトリーチと居場所事業を展開している。出典: 江戸川区 ↗
兵庫県は、ひょうごひきこもり相談支援センターを通じて相談・居場所・就労支援を10年以上にわたり一体で運営している。出典: ひょうごひきこもり相談支援センター ↗
道内では2026年6月、北海道大学病院とクラスター、Mediative が産学連携で、ひきこもり支援のためのメタバース診察システムの共同研究を始めた。対面以外の接点をどう設計するかという問いに対する、道内発の取り組みにあたる。
5. 事業者が担える受け皿
業務を時間単位で切り出す
札幌市のショートタイムワークは、週数時間から始められる業務を企業が切り出し、そこに当事者が参加する仕組み。求人票を1人分つくるのではなく、業務を分解して数時間分を用意する形をとる。人手が不足する現場ほど、切り出せる業務は見つけやすい。
通年でない関わり方を制度に組み込む
季節や繁閑の差が大きい業種では、通年雇用を前提としない参加の形が設計しやすい。複数の事業者で業務を持ち寄れば、一社では成立しない仕事量でも受け皿になる。
居場所を兼ねる場をつくる
働く前の段階で、日中を過ごせる場が要る。既存の店舗や事業所の一角、使われていない時間帯の空間が、その役割を担える場合がある。支援団体や家族会との接点を持つことから始められる。
数字を自分の地域で確かめる
この記事の数字は札幌市を除く道内の合計値で、市町村ごとの状況は大きく異なる。自分の地域の窓口がどこにあり、何人を把握しているかは、市町村の担当課か道立保健所に尋ねれば確認できる。64市町村では把握と支援がこれからの段階にあり、そこでは事業者側からの働きかけが最初の一歩になりうる。
参考文献
- ひきこもり支援状況等調査 ・ 北海道 保健福祉部福祉局障がい者保健福祉課
- ひきこもり支援について ・ 北海道 保健福祉部福祉局障がい者保健福祉課
- ひきこもり支援 ・ 札幌市 ( 札幌市ひきこもり地域支援センター )
- 札幌市のひきこもり相談が最多3345件 就労支援「短時間勤務」は実績ゼロ ・ 北海道新聞デジタル ( 2026年7月16日 )