制度の対象でありながら、 届いていない - 見えない貧困を数字で追う
報告書自身が算出している。ひとり親世帯の17.2%が生活保護を「利用する必要があったが利用していない」。生活保護基準相当の世帯で利用経験は11.7%、児童扶養手当を受給する母子世帯でも13.3%。ひきこもり調査では実数把握1,555人に対し推計5,645人。4つの一次資料に同じ構造が現れる。
貧困は、統計に現れた分だけが存在するわけではない。制度の対象でありながら使っていない人、支援の網の外にいて数えられていない人が、その手前にいる。北海道が公表している4つの一次資料に、同じ構造が現れている。うち1つは、その割合を調査報告書自身が算出している。
1. 数値で見る現状
ファクト: 北海道大学の研究班と北海道・札幌市が2021年 ( 一部2022年 ) に実施した子どもの生活実態調査で、生活保護基準とほぼ同水準にあたる「低所得層Ⅰ」のうち、生活保護を相談・利用したことがあるのは11.7%だった。調査は約3万人を対象とし、約70%から回答を得ている。出典: 道内の子どもの貧困の現状 ↗ ・ 北海道 保健福祉部子ども政策局
ファクト: 利用しなかった理由の内訳は、相談する必要がなかった72.1%、条件を満たしていなかった6.4%、相談するのに抵抗感があった5.0%、相談先や方法を知らなかった3.4%、時間や場所が使いづらかった1.4%。
ファクト: 同じ調査でスクールソーシャルワーカー・スクールカウンセラーについて、相談先や方法を知らなかったと答えた割合は 低所得層Ⅰで8.1%、低所得層Ⅱ以上で3.0%。低所得層で2.7倍になる。抵抗感があったも 5.6%対2.4%で開きがある。
ファクト: 報告書はこの結果について「この調査での『低所得層Ⅰ』の基準は生活保護基準とほぼ同じ水準であるので、制度の対象であるにも関わらず利用していない人が存在している可能性があります」と記している。
ファクト: 母子世帯の60.6%が低所得層Ⅰに属する。調査世帯全体では15.3%で、4倍の水準にある。
ファクト: 同じ研究班が2022年に実施したひとり親家庭生活実態調査では、児童扶養手当を受給している母子世帯のうち 生活保護を利用したことがあるのは13.3%。利用しなかった理由は 必要がなかった55.4%、利用するのに抵抗感があった12.3%、条件を満たしていなかった6.4%、まったく知らなかった4.6%だった。回答は1,856世帯、回収率42.7%。出典: ひとり親家庭生活実態調査 ( 2022年 ) ↗ ・ 北海道 / 北海道大学
ファクト: 同調査で 母子生活支援施設を「制度をまったく知らなかった」と答えた母子世帯は30.9%、生活福祉資金では29.5%だった。
ファクト: 同じ第2回調査の乳幼児 ( 2歳・5歳 ) を対象とした部では、報告書自身が「利用する必要があったが利用していない」割合を算出している。生活保護について 全体で5.3%、ひとり親世帯で17.2%、低所得層Ⅰで12.4%。利用したことがある・利用する必要がなかった・不明の合計を100%から引いた残差として求めたもの。理由はひとり親世帯で 条件を満たしていなかった6.9% ・ 抵抗感があった4.5%だった。出典: 第2回 北海道子どもの生活実態調査 第Ⅰ部 ↗ ・ 北海道大学 / 北海道
ファクト: 同じ部で 一時預かり事業の利用率は ひとり親世帯18.5% ・ ふたり親世帯22.8%。「利用する必要がなかった」は ひとり親世帯44.6% ・ ふたり親世帯51.9%。市役所・町役場の相談窓口の利用は ひとり親世帯25.1% ・ ふたり親世帯13.5%だった。
2. 4つの調査に共通する形
ファクト: 北海道が別に実施しているひきこもり支援状況等調査 ( 令和6年度 ) では、札幌市を除く道内178市町村のうち98市町村が実数で1,555人を把握している。一方、推計人数まで算出した30市町村では その推計値の合計が5,645人だった。出典: ひきこもり支援状況等調査 ↗ ・ 北海道 保健福祉部福祉局障がい者保健福祉課
ファクト: 同調査で人数の把握方法を尋ねた結果 ( 98市町村・複数回答 ) 、日々の業務で把握が93市町村。住民を対象とした全戸調査を実施した市町村は0だった。
ファクト: 生活保護を利用しなかった理由のうち「抵抗感があった」は、子どもの生活実態調査の低所得層Ⅰで5.0%、ひとり親家庭生活実態調査の母子世帯で12.3%。後者は児童扶養手当を受給しており、ひとり親であることが行政に把握されている世帯にあたる。
推論: 4つの調査は対象も方法も異なるが、数字の立ち上がり方は似ている。窓口に来た人、業務のなかで出会った人が統計になり、来なかった人・出会わなかった人は数字の外に残る。実数1,555人と推計5,645人の開き、生活保護基準相当で利用11.7%という数字は、どちらも同じ場所を指していると考えられる。
推論: ここで言う「見えない」は、隠れているという意味ではない。制度の設計上、把握される経路が窓口と日常業務に依存しているため、そこを通らない人が数えられない、という構造の問題として読める。
推論: 児童扶養手当の受給世帯で抵抗感の比率がより高いことは、行政に把握されていることと制度を使えることが別であることを示している。所在が分かっていても、使うかどうかは本人の側の条件に左右される。把握の網を広げるだけでは届かない部分があると考えられる。
推論: 乳幼児調査で ひとり親世帯は 相談窓口の利用率が高い ( 25.1%対13.5% ) 一方、一時預かり事業と子育て支援センターの利用率は低い ( 18.5%対22.8%、22.9%対31.9% ) 。相談まではたどり着いても、サービスの利用には至っていない形が読める。窓口とサービスのあいだにも距離があるとみられる。
3. 論点
中心問い: 制度が届かない理由のうち、制度の側で変えられるのはどれか。
利用しなかった理由のうち最も多いのは「必要がなかった」で、これは制度が届いているかどうかとは別の話にあたる。残る項目 ―― 条件を満たしていなかった6.4% ・ 抵抗感があった5.0% ・ 知らなかった3.4% ・ 使いづらかった1.4% ―― は性質が異なる。
仮説: このうち「知らなかった」と「使いづらかった」は広報と運用の設計で動く。「抵抗感があった」は窓口の作り方と、社会の側の受け止め方に関わる。「条件を満たしていなかった」は制度そのものの設計に属する。同じ「届いていない」でも、手を入れる場所は分かれている。
ファクト: コロナ禍の影響を尋ねた設問では、すべての項目で所得階層が低いほど影響が大きい。世帯収入が減ったは 低所得層Ⅰ37.0%に対し上位所得層10.1%。子どもの学習に支障がでたは 20.1%に対し12.8%。
推論: 収入が減った世帯ほど制度の必要性は高まるが、その層ほど「知らなかった」「抵抗感があった」の比率も高い。必要性が高まる局面と、制度に近づきにくい要因が重なる層が同じであることが、この数字から読める。
4. 数字が示す打ち手
知らせる経路を、窓口の外に置く
ひきこもり調査で把握方法の93/98が日々の業務だったように、情報も窓口を起点に流れている。窓口に来る前の場所 ―― 学校、職場、商店、医療機関 ―― に制度の情報が置かれているかどうかで、知らなかったの3.4%と8.1%は動きうる。
相談の前に接点をつくる
保健師への相談は所得階層によらず約3割で、他の制度より接点が広い。相談という形式を取らない接触が先にあると、その後の相談につながりやすいことを示す数字といえる。事業者や地域の活動が、この最初の接点を担える場面がある。
数字の外側を推計する
ひきこもり調査で推計まで出した市町村は30 ( 16.9% ) にとどまる。実数の把握と並行して推計を持つことで、把握できていない範囲の大きさが分かる。自分の地域について同じ問いを立てられるかどうかが、支援の設計の出発点になる。
制度の条件を確かめる
生活保護で「条件を満たしていなかった」は6.4%。この層は制度を知り、相談まで至ったうえで対象外となっている。広報や運用ではなく制度設計の側に属する数字で、他の支援策との接続を考える手がかりになる。
参考文献
- 道内の子どもの貧困の現状 子どもの生活実態 ・ 北海道 保健福祉部子ども政策局 ( 第2回 子どもの生活実態調査 ・ 2021年一部2022年実施 )
- ひきこもり支援状況等調査 ・ 北海道 保健福祉部福祉局障がい者保健福祉課 ( 令和6年度 )
- ひとり親家庭生活実態調査 報告書 ( 2022年 ) ・ 北海道 / 北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
- 第2回 北海道子どもの生活実態調査 報告書 第Ⅰ部 乳幼児 ( 2023年10月 ) ・ 北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター / 北海道