小5で 47.4% - 家が苦しいと感じている子どもに、 何が起きているか
抑うつ群の割合は 所得階層別で低所得層Ⅰ38.0%対 上位所得層32.1%。一方 子ども自身が暮らし向きを大変苦しいと感じている小5では47.4%で、大変ゆとりがある14.3%の3倍を超える。世帯の所得より、子どもの認識のほうが強く関係している。
貧困が子どもに与える影響を測るとき、世帯の所得で分けるのが一般的だ。北海道の調査は、それとは別の分け方でより大きな差が出ることを示している。子ども自身が、自分の家の暮らし向きをどう感じているか、という分け方だ。
1. 数値で見る現状
ファクト: 第2回 北海道子どもの生活実態調査 ( 2021年・一部2022年 ) で、小5・中2・高2の子ども4,972人に抑うつ尺度を尋ねた。7点をカットオフ値とし、7点以上を抑うつ群とする。全体では抑うつ群が33.5%、一般群が62.3%だった。出典: 道内の子どもの貧困の現状 ↗ ・ 北海道 保健福祉部子ども政策局
ファクト: 所得階層別に見ると、抑うつ群の割合は 低所得層Ⅰ38.0% ( 790人 ) ・ 低所得層Ⅱ30.8% ・ 中間所得層Ⅰ33.0% ・ 中間所得層Ⅱ32.9% ・ 上位所得層32.1% ( 736人 ) 。低所得層Ⅰが最も高いが、他の4階層のあいだに一貫した傾きは現れていない。
ファクト: 子ども自身が感じる暮らし向き別に見ると、小学5年生 ( 1,970人 ) では 大変苦しい47.4% ( 38人 ) ・ やや苦しい43.6% ( 101人 ) ・ ふつう18.9% ( 953人 ) ・ ややゆとりがある20.4% ・ 大変ゆとりがある14.3% ( 140人 ) 。中学2年生 ( 1,726人 ) では 大変苦しい47.1% ・ やや苦しい48.4% ( 153人 ) ・ ふつう35.2% ・ 大変ゆとりがある21.6%だった。
ファクト: 世帯類型別では ひとり親世帯38.9% ( 819人 ) ・ ふたり親世帯32.1% ( 3,934人 ) 。
2. 所得の差より大きいもの
推論: 所得階層で分けたときの差は 38.0%対32.1%で6ポイント。子ども自身の暮らし向きの認識で分けると、小5で47.4%対14.3%と33ポイントの開きになる。同じ子どもたちを別の軸で切ったときに、後者のほうが大きな差が現れている。世帯の所得という外形的な条件よりも、子どもがそれをどう受け止めているかのほうが、心理状態と強く結びついていると読める。
ファクト: ただし「大変苦しい」と答えた子どもは小5で38人、中2で34人と少数で、割合の変動は大きい。「やや苦しい」を含めると小5で139人、中2で187人になり、こちらも同水準の割合を示している。
ファクト: 子どもが感じる暮らし向きは、学年が上がるにつれて「大変苦しい」「やや苦しい」と答える割合が増える。ふたり親世帯よりひとり親世帯の子どものほうが「苦しい」と認知している者が多い。所得階層が低くなるほど、苦しいと答える割合が高くなる関係も現れている。
推論: 所得と子どもの認識は無関係ではないが、一致もしていない。「わからない」と答えた子どもが小5で436人 ( 22.1% ) 、中2で294人 ( 17.0% ) おり、その層の抑うつ群は29.6%と43.9%で、ふつうと答えた層より高い。家の経済状況を把握していない状態と、心理状態のあいだにも関係があるとみられる。
3. 論点
中心問い: 子どもに届く支援は、何を手がかりに対象を決めるべきか。
ファクト: 教育費について「まったく目処はついていない」と答えた保護者は 低所得層Ⅰで49.0%。上位所得層では76.0%が準備を始め、14.2%はすでに準備を終えている。
ファクト: 子どもにどの段階まで教育を受けさせたいかという問いに「高校」と答えた保護者は 低所得層Ⅰ31.8%・上位所得層5.4%。小5・中2の時点で、想定される進学段階に6倍近い差がある。
ファクト: 子どもに必要な受診をさせなかった経験のある保護者は全体で15.5%、低所得層Ⅰで24.0%、上位所得層で10.6%。回答者自身が受診を控えた経験は全体28.8%、低所得層Ⅰで44.5%だった。
仮説: 所得を基準に対象を決める制度は、教育費や受診のような支出に直接効く。一方で子どもの心理状態に効く支援は、所得階層を基準にすると届く範囲がずれる可能性がある。暮らし向きを苦しいと感じている子どもは、すべての所得階層に分布しているとみられるためだ。
ファクト: ほっとできる場所として「自分の家」を選ぶ子どもは いずれの学年 ・ 世帯類型でも8割を超える。所得階層別では 低所得層Ⅰだけが8割を切る。悩みごとの相談相手として親を選ぶ割合は 他の階層がすべて7割を超えるなか 低所得層Ⅰのみ68.7%だった。
推論: 家が居場所になりにくく、親に相談しにくい子どもが、低所得層Ⅰでわずかに多い。この差は数ポイントで大きくはないが、家の外に居場所と相談相手が必要な子どもが一定数いることを示している。
4. 数字が示す打ち手
所得の把握を前提としない接点を持つ
暮らし向きを苦しいと感じている子どもは、所得階層をまたいで存在するとみられる。学校 ・ 地域の活動 ・ 事業者が持つ接点は、世帯の所得を知らないまま関われる。所得で対象を絞る制度が届かない範囲を、この接点が補える。
家の外の居場所を用意する
ほっとできる場所として自分の家を選ぶ割合が8割を切るのは 低所得層Ⅰだけだった。放課後に一人で過ごすことが「よくある」子どもは ひとり親世帯で10ポイントほど多い。開いている時間帯の店舗、事業所の一角、図書館や公共施設が、この時間を受け止めうる。
進学の目処が立つ情報を早く届ける
教育費の目処がついていない保護者は 低所得層Ⅰで49.0%。小5・中2の時点で進学段階の想定に差がついている。奨学金や授業料減免の情報が この段階で届くかどうかが、想定を動かす余地にあたる。
保護者自身の受診に目を向ける
保護者が自分の受診を控えた経験は28.8%で、子どもについての15.5%より高い。低所得層Ⅰでは44.5%にのぼる。子どもへの支援を設計するとき、保護者の健康は前提でなく、支援の対象として扱う必要がある。
この数字の範囲
ファクト: 北海道・札幌市の全体の数値で、市町村別の内訳は報告書のこの部に含まれない。抑うつ尺度は自己記入式で、診断ではない。「大変苦しい」に該当する回答者は小5で38人、中2で34人と少数のため、割合の変動が大きい。所得は可処分所得の推計値にもとづく。
参考文献
- 道内の子どもの貧困の現状 子どもの生活実態 ・ 北海道 保健福祉部子ども政策局
- 第2回 北海道子どもの生活実態調査 報告書 第Ⅱ部 ( 2023年10月 ) ・ 北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター / 北海道 / 札幌市