道内森林の蓄積・吸収・素材生産の50年データ - 成熟期に入った森を読み解く
道内森林蓄積は約8.4億m3で全国の16%。50年で人工林蓄積は約3倍に。年間吸収量は約780万tCO2、素材生産量は約340万m3で全国首位。樹齢構造が「植える」から「使う」へ動く転換期にある。
道内の森林面積は約554万ha、蓄積量は約8.4億m3で全国の16%。50年で人工林蓄積は3倍超に伸びた一方、素材生産は約340万m3で全国首位だが、年間成長量(約1500万m3推計)の3割未満しか利用できていない。「植える林業」から「使う林業」への転換点を数値で読む。
1. 主要データ
森林の蓄積・吸収・生産の3軸を50年スパンで整理。
データ1・道内森林面積は約554万ha、道土地面積の約71%。全国森林面積の約22%を占め、1都道府県として圧倒的シェア。出典: 林野庁 北海道森林管理局 ↗
データ2・森林蓄積量は2021年4月時点で約8.4億m3、全国の約16%。1970年頃の約3億m3から約2.8倍に増加し、特に人工林蓄積は1970年の約7000万m3から2021年に約2.3億m3へと3倍超に伸びた。出典: 国土交通省 北海道局 北海道の森林・林業2024 ↗
データ3・林種別構成は天然林が約68.7%(約381万ha)、人工林が約26.6%(約147万ha)、無立木地等が約4.7%。本州主要県の人工林比率(40-60%台)と比べ、天然林の比率が際立って高い。出典: 林野庁 森林資源の現況 ↗
データ4・年間素材生産量は約340万m3(2022年)で全国首位、全国シェア約14%。1970年代のピーク(年間1000万m3超)からは大幅減だが、近年は底打ち横ばいで推移。出典: 林野庁 北海道森林管理局 素材生産動向 ↗
データ5・道内森林の年間CO2吸収量は約780万tCO2(2021年度推計)、全国吸収量の約16%。道内排出量の約13%を相殺するポテンシャル。出典: 環境省 北海道森林管理局 ゼロカーボン取組 ↗
データ6・カラマツ・トドマツの人工林は7-13齢級(樹齢35-65年)が主体で、伐期(主伐適期)を迎えている。今後20年で大規模な伐採・再造林の判断が連続する。出典: 北海道庁 担い手育成 林種別森林面積資料 ↗
2. 4軸比較
森林資産のスケール感を4軸で並べる。
| スケール | 森林面積 / 蓄積 ( 単位 ) | 比率 / 順位 |
|---|---|---|
| グローバル | 約40億ha / 蓄積約5570億m3 | 陸地面積の約31%・森林率トップはスリナム約97% |
| 全国 | 森林面積約2505万ha / 蓄積約55億m3 | 森林率約66%・先進国トップ級 |
| 北海道 | 森林面積約554万ha / 蓄積約8.4億m3 | 森林率約71%・全国蓄積の16% |
| 道北 ( 上川・宗谷・留萌合算 ) | 森林面積約180万ha推計 / 蓄積約2.7億m3推計 | 道内蓄積の約3割・カラマツ・トドマツ主体 |
3. 解説 ・ 数値が示す構造
道内森林の50年データは「成功した蓄積、未活用の生産」という二面性を示す。蓄積量が3倍近く伸びた一方、素材生産量はピーク時の3分の1。年間成長量(約1500万m3推計)に対して、利用量は約340万m3、利用率は約23%にとどまる。「使わなければ循環しない」森林経営の構造課題が顕在化している。
人工林の齢級構造は政策の蓄積を映す。戦後の拡大造林期(1950-70年代)に植えられた木が一斉に伐期を迎え、今後20年で「主伐 → 再造林」を判断する大規模意思決定が連続する。再造林が遅れれば、現在のCO2吸収量は維持できない。林野庁は再造林率を上げる政策を打つが、苗木供給・労務・採算性のボトルネックが解消されない限り絵に描いた餅となる。
吸収量780万tCO2は道内排出量の約13%。これを「会計上の吸収」として活用するにはJ-クレジット制度の認証が必要で、認証可能な森林は限定的。実吸収と認証可能吸収の間のギャップを埋めることが、森林を「炭素資産」に転換する勝負どころとなる。
仮説: 道内林業の最大ボトルネックは需要側ではなく、供給側のオペレーション。主伐・再造林・路網整備・人材供給の4点が同時に崩れる構造を、補助金ではなく事業設計で立て直す必要がある。
推論: 2030年代後半に道内素材生産は年間500万m3規模へ回復し、CLT・大断面集成材・バイオマス燃料の3用途が需要を底上げする。
4. 道内振興局別の現実
樹種構成・蓄積・利用構造を6振興局で整理。
| 振興局 | 主力 / 特性 | 主要数値 | 応用すべき打ち手 |
|---|---|---|---|
| 上川 ( 旭川・名寄・下川 ) | カラマツ・トドマツ人工林の中心 | 道内素材生産の約20% | 下川モデルの集約化施業・地域熱供給連動 |
| 網走 ( オホーツク ) | 大規模国有林・路網整備進む | 素材生産シェア道内首位級 | 大型素材生産システムの標準化・人材育成 |
| 十勝 | 農地隣接森林・防風林の比重 | 農地涵養・防風機能の評価が課題 | 多面的機能の収益化・農林連動経営 |
| 宗谷 ( 道北最北 ) | 低生産性林分・寒冷気候の制約 | 蓄積はあるが利用は限定 | 低質材バイオマス用途・サーモウッド加工 |
| 渡島・檜山 ( 道南 ) | スギ・ヒノキ主体の本州型 | 道内では人工林比率が高い | 本州市場向け高品質材・住宅建材 |
| 後志 | 観光地隣接・景観林の比重 | 木質チップの観光地熱供給に活用余地 | 観光業との連動・地域熱供給 |
仮説: 道北(上川・宗谷)の森林は「使い切れない蓄積」のフロンティア。中小事業者向けの集約化スキームを下川モデルから水平展開できれば、3000-5000人規模の地域雇用に直結する。
推論: 2030年代に道産CLT・道産バイオマス燃料の需要が国内市場の主要枠を占め、道北の素材生産は現状の2倍へ拡大する。
5. 限界と論点
- 森林蓄積量の調査は5年に1回更新、最新値はラグがある。気候変動による樹木の枯死・成長速度の変化は反映が遅い。
- 年間成長量は推計値で、樹種・林齢・気候により幅が大きい。「使えていない」という議論の前提自体に幅がある。
- 素材生産量に含まれない用材外利用(燃料材・特用林産物)は別統計で、森林の総利用量を見るには再集計が必要。
- 私有林の所有境界・経営状況の不明化(相続未登記等)は、集約化施業の最大の制約。データに表れない「動かない森」の比率は道内でも増加している。
6. わたしたちにできること
個人として
- 道産材を使った住宅・家具・薪を選ぶ、産直木材市場の活用
- 森林ボランティア・植樹イベントへの継続参加
- 森林環境譲与税の使途を住民として確認・提言する
- 道内NPO/林業協同組合への寄附・会員支援
- 森林散策・林業体験ツアーで地域経済に還元
企業・組織として
- 自社建築・改装で道産CLT・道産集成材を採用
- J-クレジット購入による道内森林吸収への資金還流
- 社員研修に森林体験プログラムを組み込む
- 道内林業会社との長期供給契約・出資
7. ビジネスアイデア
私有林集約化マネジメント会社
- ターゲット・相続未登記・不在地主問題を抱える道内市町村・私有林所有者
- 収益・仕組み・所有者特定 + 境界確定 + 経営委託の一括サービス、伐採収益のレベニューシェア
- 組み合わせ・司法書士・道立林試・林業協同組合・地銀のグリーン融資
道産バイオマス熱供給ネットワーク
- ターゲット・道北寒冷地の温泉宿・公共施設・農業用ハウス
- 収益・仕組み・低質材を燃料化、熱供給の長期契約 + 機器メンテで継続収益
- 組み合わせ・地場製材所・自治体・観光協会・nbynの自然多様性データ堀
道産CLT建築デザインスタジオ
- ターゲット・道内大型公共建築・道外都市部の中層商業施設
- 収益・仕組み・設計 + 道産材調達 + 加工コーディネーション、設計料 + マージン
- 組み合わせ・道内CLT工場・大手ゼネコン・建築家ネットワーク
編集部が課題から逆算した新規事業 ・ 起業 ・ 投資の方向性 ( 推奨ではなく出発点 ) 。