人口減少からの回復構造 - 北海道と海士町・神山町・上士幌に学ぶ

道内人口は70年ぶり500万人割れ、減少率4.6% と全国最大。「人を増やす」では追いつかない局面で、海士町・神山町・上士幌が積み上げた「持続性を高めるためのポイント」の構造を読み解く。

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アイデア

2025年の国勢調査速報で、北海道は 498万5419人と70年ぶりに500万人を割り込んだ。2020年から5年で4.6% の減少、減少数・減少率ともに47都道府県で最大。札幌一極集中も同時進行し、道内人口の約4割が札幌市に集中している。

この局面で参照されるのが、海士町・神山町・上士幌町といった「長期に構造を組み替えた」町だ。だが彼らの実装をそのまま輸入しても効かない。本稿は道内の現状を起点に、何が「残せる資産」になるかを整理する。

1. 道内の現状 - 数字で見る人口減

数字を並べると、道内の人口減少は「均一な縮小」ではなく **「二極化と集中の同時進行」**であることが見える。

2025年国勢調査速報で北海道は498万5419人。500万人割れは1955年以来70年ぶり。2020 → 2025で4.6% 減 ( 全国平均1.9% 減 ) で、減少数・減少率とも都道府県別で最大。出典: 北海道庁・2025国勢調査速報 ↗ 札幌市の人口も196万4034人と前回比9,361人減。国勢調査開始 ( 1920年 ) 以来、札幌市が初の人口減少局面に入った。出典: 総務省・国勢調査2025速報 ↗ 道内179市町村のうち152市町村 ( 約85% ) が過疎地域に指定。人口増加した自治体は5年で6市町村 ( ニセコ・倶知安・東川・恵庭 等 ) にとどまる。出典: 総務省 過疎対策室 ↗ 国立社会保障・人口問題研究所推計では、2070年の道内人口は約281万人 ( 現在比約56% ) 。半世紀で4割以上が消える見通し。出典: 社人研 地域別将来推計人口 ↗

仮説: 二極化の背景には、道内で「郡部 → 地方中核市 → 札幌 → 東京」という多段階の人口移動が定着していることがあると考えられる。札幌自体も減少局面に入った今、道内で吸い上げても道外へ漏れる「二重の漏斗」になっている。

推論: 現行ペースが続けば、2030年代後半には道南・道北の小規模町村で行政機能維持自体が困難になる町が出る可能性が高い。単独の「人を呼ぶ」施策では、この勾配を反転させるのは難しい。

2. 論点 - 人口維持か、資産蓄積か

論点: 「人口を維持する」ことを目標にし続けるか、それとも「人口が減っても持続性を高めるためのポイント」を目標に組み替えるか。評価軸の選択そのものが、施策設計を分岐させる。

長期に挑戦してきた海士町・神山町・上士幌町に共通するのは、人口の絶対数ではなく **「町に何が蓄積されたか」**を継続的に問うてきた点だ。ここから論点を抽出する。

3. 持続性を高めるためのポイント

編集部では、人が出入りしても地域に残るものを 事業・関係・仕組み・規範の4つに分けて整理している。4つは独立ではなく相互に補完する。事業は関係を呼び込み、関係が事業を回し、仕組みが両者を引き継ぎ、規範がそれらの意味づけを長期に固定する。

資産種別内容道内例 ( 編集部整理 )
事業資産起業・継業した事業、加工所、ブランド、知財上士幌町のバイオガス発電・道の駅、ニセコの国際リゾート関連事業
関係資産外部人脈、[関係人口](/glossary.html#term-related-population)、大学・企業連携、サポーター層東川町の写真甲子園経由 OB・OG ネットワーク、[ふるさと納税](/glossary.html#term-furusato-nozei)寄附者リスト
仕組み資産お試し滞在運用、マッチング窓口、評価指標、文書化されたノウハウ恵庭市の子育て世代向け支援サイト、各町の地域おこし協力隊運用フロー
規範資産町の意思決定基準、言語化された理念・コンセプト東川町「写真の町」、上士幌町「子育て世代に選ばれる町」

4. 道外・海外の参考事例

ここでは 5年以上継続し、構造的な仕組み変化を伴う 3事例を取り上げる。道内文脈への翻訳は次節で扱う。

海士町 ( 島根県・人口約2,300人 )

島前高校魅力化プロジェクトは2008年に開始し2026年で18年目。廃校危機の県立高校を、自治体・学校・地域で一体運営し、島外から生徒を呼ぶ「島留学」と地域協働カリキュラムを展開。I ターン者は累計800名超とされる。出典: 島前高校魅力化プロジェクト ↗

仮説: 20年近く継続できたのは、高校という「核となる仕組み資産」を1つに絞り、移住・起業・寄附の全てをその核に結び付けて意味づけしてきたためと考えられる。移住を独立した施策にしなかったことが長寿命化の鍵。

神山町 ( 徳島県・人口約4,800人 )

NPO グリーンバレー主導のサテライトオフィス誘致は2010年から継続し、2026年で16年目。2023年には神山まるごと高専 ( 私立高専 ) を開校し、教育移住への展開を始めた。出典: イン神山 ( NPO グリーンバレー ) ↗

仮説: サテライトオフィスから始まり教育機関設立に到達した経路は、関係資産 ( 都市企業との接点 ) を時間をかけて事業・仕組み資産に転換した結果と考えられる。

上士幌町 ( 北海道・十勝・人口約4,800人 )

上士幌町は認定こども園を10年間にわたり利用料無料、高校生まで医療費全額補助、住宅新築補助等で子育て世帯への投資を継続。ふるさと納税が主な財源で、2016年には十勝管内で唯一人口が増加に転じた。出典: 上士幌町 公式サイト ↗ 上士幌町は2022年に環境省第1回脱炭素先行地域に選定。牛ふん尿バイオガス発電・防災マイクログリッド・自動運転バスを並走させている。出典: 環境省 脱炭素先行地域 ↗

仮説: 上士幌の特徴は ふるさと納税という関係資産を、子育て・エネルギー・モビリティの3領域の事業・仕組み資産に転換する経路を作ったこと。単一施策ではなく、資産間の循環設計が効いている。

5. 北海道に応用するなら

仮説: 海士町や神山町をそのまま模倣するのは難しい。北海道の市町村は面積・産業構造・気候のいずれも独特で、「核となる仕組み1つ」の設計は 道内固有の資源 ( 一次産業・自然・国境地域性・アイヌ文化等 ) から逆算する必要がある。ふるさと納税を関係資産の入口とし、事業・仕組みへ転換する上士幌の経路は、道内他自治体にとって最も再現性が高い参考軸になり得る。

推論: 今後5-10年で道内の小規模自治体が選別される局面に入る可能性が高い。「人口を維持しようとした町」と「資産を残そうとした町」の差は、統計上の人口減少率には現れにくい。だが、行政・民間事業・コミュニティの3つが連動している町は、人口が半減しても自立可能な姿を保ち得る。

6. わたしたちにできること

資産蓄積は行政だけでは進まない。個人・企業の関わり方が、関係資産の厚みを直接左右する。

個人として

  • ふるさと納税を「返礼品」ではなく「残したい仕組みへの寄附」として選ぶ ( 上士幌の保育、海士町の高校魅力化 等 )
  • 二地域居住・関係人口として、1つの町と継続的に関わる ( 単発の観光ではなく3年スパン )
  • 「定着率」より「3年後に何が残ったか」で町の取り組みを評価する習慣を持つ
  • 町の規範資産 ( コンセプト・理念 ) を理解した上で、言語化を SNS で支援する

企業・組織として

  • サテライト拠点・副業制度を、関係資産が育つ町を選んで設計する ( 神山型の長期関与 )
  • 事業承継・起業支援を、地域組織 ( NPO・公社 ) を経由させて属人化を避ける
  • ふるさと納税の企業版 ( 地方創生応援税制 ) を、仕組み資産の継続運営に充てる
  • 従業員の地域兼業・移住伴走を、KPI に「3年後の資産点検」を組み込む