保育士不足と待機児童 - 北海道で「子育てインフラ」をどう設計するか

全国保育士有効求人倍率3.78倍 ( 2025 ) 。札幌の待機児童、道内の保育士不足、自治体ごとの落差。流山・明石・北欧の事例から逆算して北海道に応用する設計を読み解く。

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アイデア

北海道の出生数は減り続けている。にもかかわらず札幌では保育所に入れない子どもがいて、地方では保育士が集まらず定員割れの園が定員を絞る。**「人が減っているのに足りない」**という捻れた状態が、子育てインフラ不足の正体だ。

子育てインフラが弱い地域は、20-30代の流出が止まらない。人口維持の最後の防衛線がここにある。本稿では道内の現状を 推移で押さえたうえで、流山・明石・北欧の事例から北海道に応用可能な打ち手を逆算する。

1. 道内の現状 - 数字で見る子育て不足

施設・人材・出生・地域差の4軸を 推移で確認する。単年スナップショットでは見えない、二極化と構造的人手不足の正体が浮かぶ。

全国の保育士有効求人倍率は2020年2.45倍 → 2023年3.54倍 → 2025年3.78倍と上昇傾向。全職種平均 ( 約1.3倍 ) の約2.8倍で、慢性的な売り手市場。北海道労働局管内でも2024年は2.5倍超で推移。出典: 厚生労働省・一般職業紹介状況 ↗ 全国の保育士登録者 約185万人のうち、実際に保育に従事しているのは 約115万人 ( 2023年 ) 。約62% が登録だけして働いていない「潜在保育士」で、ここを稼働させるかが供給増の鍵。出典: 厚労省・保育士登録者の推計 ↗ 北海道の合計特殊出生率は2010年1.26 → 2019年1.24 → 2023年1.06と下落傾向。全国 ( 2023年1.20 ) を下回り、札幌市は2023年0.96と全国主要市の中でも最低水準。出典: 厚生労働省・人口動態統計 ↗ 札幌市の認可保育所等の待機児童数は2018年64人 → 2022年48人 → 2024年 約100人で増加傾向。「特定園希望」「育休延長中」等を含む潜在的待機児童は数倍規模に達するとされる。出典: 札幌市・保育所等利用待機児童数 ↗ 道内自治体間の支援格差は大きい。上士幌町は認定こども園を10年間無料化・高校生まで医療費無料・住宅新築補助 ( 中学生以下1人100万円 ) を実装し、2016年に十勝管内で唯一人口増加に転じた。出典: 上士幌町 公式・子育て施策 ↗

仮説: 道内の子育てインフラ問題は「施設不足の都市」と「人材不足の地方」が併存する 二極構造。札幌は受け皿が足りず、地方は受け皿はあっても保育士が来ない。同じ「保育不足」でも処方箋は別になる。

推論: 道内合計特殊出生率は今後も1.0を割り込む可能性が高い。子育てインフラへの先行投資をしない自治体は、20代・30代の他自治体流出が加速し、10年後には行政維持自体が難しくなる町が増えると考えられる。

2. 論点

論点: 子育てインフラの目標は「保育所を増やすこと」ではなく、「子育て世帯がその地域で子どもを持ち続けられる確信を持てること」ではないか。施設・人材・経済支援のどれか一つでは確信は生まれない。

保育所だけ作っても保育士が来なければ稼働しない。保育士の給与だけ上げても、住宅・教育・医療がセットでなければ移住しない。経済支援だけ厚くしても、預け先がなければ働けない。「施設 × 人材 × 経済 × 規範」の4つが連動して初めて「子育てインフラ」になるという認識が出発点になる。

3. 持続性を高めるためのポイント

子育て支援に投じた予算・政策のうち、何が地域に「資産」として残るかを4種に整理する。短期消費される給付と、長期に蓄積する仕組みを分けて見る視点。

資産種別中身残る条件失敗パターン
物理資産保育所・学童クラブ・子育て支援センター稼働率を維持できる人口計画と統合再編人口減で空きが出ても閉鎖判断できず固定費だけ残る
人的資産保育士コミュニティ・子育て支援員処遇改善と長期キャリアパス、地域内での養成離職率が高くノウハウが個人で持ち去られる
関係資産子育て世帯ネットワーク・高齢者ボランティア緩い場 ( ひろば事業 ) と日常接点世代分断で「個別家族で抱える」状態が固定化
規範資産「子育てを大事にする町」というブランド・議会のコンセンサス首長交代を超えた条例化・長期計画化首長交代で施策が縮小、政策の継続性が断たれる

4. 道外・海外の参考事例

千葉県流山市 - 「母になるなら、流山市」

流山市は2003年に「母になるなら、流山市。父になるなら、流山市。」をマーケティング戦略の中核に据え、共働き子育て世帯ターゲットの都市ブランディングを22年継続。送迎保育ステーションは2007年運営開始、保育所と駅の間を専用バスで結ぶ。出典: 流山市 子育て情報 ↗ 結果、流山市人口は2005年15.5万人 → 2015年17.4万人 → 2024年 約21万人と20年で約40% 増。6年連続で人口増加率全国市区トップ。合計特殊出生率は2004年1.14 → 2020年1.55と全国主要市でトップ級の改善率。出典: 流山市 統計データ ↗

仮説: 流山の成果は送迎ステーション単体ではなく、( 1 ) ターゲット明確化 ( 共働き子育て世帯 )、( 2 ) 都市ブランディングの長期一貫性、( 3 ) 駅前送迎・学童拡充・子育て交流拠点の三点セット、( 4 ) 東京通勤の利便性、の4条件が揃って初めて成立した。施策単発の輸入は機能しにくい。

兵庫県明石市 - 「5つの無料化」と総合パッケージ

明石市は2013年以降「こども医療費18歳まで無料」「第2子以降の保育料無料」「中学校給食費無料」「公共施設の親子入場料無料」「おむつ定期便」の5つの無料化を順次実装。所得制限なしで市民全体への規範メッセージとして機能。出典: 明石市 こども・子育て施策 ↗ 明石市人口は2013年29.1万人 → 2018年29.7万人 → 2023年30.5万人と10年連続増。合計特殊出生率は2013年1.50 → 2018年1.62 → 2021年1.65と中核市トップ水準。市税収入も9年連続増で、子育て投資が税収に還流する構造を実証。出典: 明石市 統計データ ↗

仮説: 明石の本質は「無料化の項目数」ではなく、所得制限なしという 規範設計。「市が子育てを引き受ける町」という認識が転入意思決定の決め手になり、税収増という経済合理性で財源を回した。

フィンランド・デンマーク - 子育てを社会の基盤に組み込む

フィンランドのネウボラは1944年に法制化。妊娠期から就学前まで同じ保健師が家族全体に伴走する制度で、乳幼児死亡率は世界最低水準。デンマークは0-6歳の保育を法的権利として保証し、保育料は所得に応じ最大約25% の自己負担。女性就業率70% 超・合計特殊出生率1.7前後を維持。出典: OECD Family Database ↗

仮説: 北欧型の強さは「制度の充実度」より、子育てを 権利として位置づけたこと。日本の「申請主義・自己責任・待機児童」の構造を逆転させる思想を含む。

5. 北海道に応用するなら

道内179市町村は人口規模・財政力・産業構造が大きく異なる。札幌市 ( 約196万人 ) と幌加内町 ( 約1,300人 ) が同じ施策を取ることはできない。規模別に打ち手を分けるのが現実解だ。

タイプ代表自治体中心課題応用すべき打ち手
大都市型札幌市・旭川市潜在待機児童・保育士確保・学童不足明石型の所得制限なし給付 + 流山型送迎ステーション
中規模都市型函館市・釧路市・帯広市保育士流出・出生数急減・学童の質保育士住宅手当 + 子育て世代向け企業誘致パッケージ
子育て特化型東川町・上士幌町・当麻町成功モデルの横展開・持続可能性規範資産の条例化・[ふるさと納税](/glossary.html#term-furusato-nozei)で財源循環
過疎地型下川町・幌加内町・利尻町保育所1つで地域全体を抱える保育園留学型の[関係人口](/glossary.html#term-related-population) + 広域連携

仮説: 上士幌町・東川町・南幌町等で0-14歳人口が増えた共通点は「子育て支援 × 住宅支援 × ふるさと納税財源」の三点セット。経済支援の額ではなく、家族の意思決定全体を引き受ける設計の質が効いている。

推論: 道内で「明石モデル」を最初に本格導入する自治体が現れれば、近隣自治体は子育て世帯の流出圧力にさらされる。上士幌・東川は限定エリアで「子育て競争」の波を作っており、5-10年で道内中核市レベルにも波及する可能性がある。

6. わたしたちにできること

子育てインフラの議論は行政だけでは閉じない。住民・企業・メディアが「何を当たり前と見なすか」が、規範資産を形作る。

個人として

  • 自治体の子育て支援を「給付額」ではなく「規範・仕組み」で見る目を持つ
  • 保育士・学童指導員の労働環境への共感と発信
  • ふるさと納税で子育て支援事業を寄附先に選ぶ
  • 祖父母世代・地域住民として子育てひろば等に参加

企業・組織として

  • 事業所内保育・病児保育の検討、地域企業の共同運営も選択肢
  • 育休・時短・リモートの制度化と運用、男性育休の実取得
  • 従業員の保育園・学童送迎を可能にする勤務設計
  • 地域の保育士養成校・子育てプロジェクトへの協賛