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担当者が住民の隣に座る時間を、デジタルでつくる

[ 設計 ] 公開 2026-06-15 ・読了 6分

デジタル化の出発点をツール選定ではなく業務の棚卸しに置くと、担当者の手元には住民と話す時間が残る。道北の小さな町の事例と、そこから見える設計の順序を整理する。

* テーマ * 業務の棚卸し / 住民との時間 / AI が空けた時間


5年後の窓口

申請を持って来た住民が、5分後にカウンターを離れていく。担当者は端末に張り付かず、隣に座って世間話をしている。

この風景はどう設計されたか、という問いから話を始めたい。

棚卸しから動く

業務の棚卸しは、担当者3人とホワイトボードと付箋があれば成立する。「いつ始まったか」「誰のためにやっているか」「やめたら誰が困るか」を3列で書き出すだけだ。

書き出すと、業務の地図ができる。5年前に始めた業務、10年前から続いている業務、法令で残っている業務、慣習で残っている業務 が並ぶ。地図を眺めると、「やめる」「統合する」「残す」の選び分けが具体に見えてくる。

やめる、という選択肢

業務をやめるという選択は、提案されにくい。提案する立場の人が地域の中にあまりいない、という事情がある。

それでも、やめる選択肢が地図に並んだとき、地域は身軽になりうる。やめた分の時間で、担当者は別の住民のために動ける。やめた業務に貼ろうとしていた SaaS の保守費用も浮く。

DX の効果は「導入した数」より「業務の総量を減らした数」で測ったほうが、5年後の景色をよく予測できる、と考えている。

残ったところに AI を当てる

棚卸しを経ても残る「やめられない、でも面倒な業務」がある。議事録、FAQ、統計の解説、文書ドラフト。生成 AI はここで効く。

順序を入れ替えて、棚卸しの前に AI を貼っても、担当者の時間はあまり空かない。やめても良かった業務に AI を当てているからだ。棚卸しの後に当てると、担当者の時間が本当に空く。

空いた時間の使い道として、もう一度カウンターに戻ること、を提案したい。住民の話を聞く時間に充てる。AI が業務を奪うのではなく、担当者が住民の隣に座る時間を増やしてくれる、という設計だ。

道北のある町の数字

道北のある町で、申請業務5種類の棚卸しを行った。2種類は年間10件未満で紙のままが早いという結論になった。1種類は別業務と統合できると分かった。デジタル化したのは残った2種類だけだったが、業務全体の手間は約40% 減った。担当者は新しい住民サービスの企画に着手している。

数字としては地味かもしれない。ただ、町の窓口の空気は確実に変わったと、担当者は言う。

設計の順序

  1. 業務を棚卸す・付箋で地図をつくる
  2. 問いを言い直す・「効率化」を「住民にとっての価値」に言い換える
  3. やめる / 統合する / 残す を選ぶ
  4. 残ったものをデジタル化する

この順序を踏むと、5年後の手元には、軽くなった業務と、担当者の余裕の時間が残っている。ツールの数ではなく、時間の質で測れる結果になる。

始める道具

棚卸しに必要なのは、大臣でも市長でもなく、担当者3人と90分の会議室、付箋ひと袋。そこから先の道筋はそれぞれの地域で違うものになるが、出発点は同じところに置ける。


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