黒字でも廃業 - 北海道の一次産業の担い手構造
北海道の農業・漁業・林業は黒字でも廃業に至る事業者が少なくない。承継 = 人 + 価値再設計 + 販路という三層構造と、わたしたちにできる関わり方。
課題発見
北海道の一次産業 ( 農業・漁業・林業 ) は全国有数の集積地。だが、経営者の高齢化と後継者不足で、黒字でも廃業に至る事業者が少なくない。
問題は単なる「人不足」ではない。承継 = 人 + 価値再設計 + 販路、という三層構造の課題を解きほぐす。
1. 数値で見る現状
| 指標 | 数値 | 備考・出典 |
|---|---|---|
| 北海道 農業経営体数 | 約33,000戸 | 農林業センサス2020 |
| 1経営体平均耕地 | 約34ha | 全国平均2.5ha の約13倍 |
| 農業経営者の平均年齢 | 約60歳 | 全国68歳より低いが高齢化進行 |
| 北海道 漁業就業者 | 約24,000人 | 漁業センサス2018 |
| 道内林業従事者 | 約5,000人 | 林業労働力動向 |
北海道は大規模化が進む一方、経営者の高齢化と次世代不在が深刻化。十勝・オホーツク等の畑作地帯で特に課題が大きい。
2. 「黒字でも廃業」の構造
事業として収益性があっても、後継者不在で廃業する事例が増えている。
- 親世代は「子どもには違う道を」と進学・就職を推した結果、後継者が育っていない
- 外部からの新規参入は資金・土地・ノウハウのハードルが高い
- 第三者継承のマッチングが進まず、引き継ぎ機会を逃す
- 農業・漁業・林業の独特な労働環境 ( 季節性・体力・自然依存 ) への理解不足
本質的な問題: 「人がいない」のではなく、「承継の仕組みがない」。事業・価値・販路・関係を含めた包括的な承継設計が不在。
3. 論点 - 承継の三層構造
事業承継は「人を引き継ぐ」だけでは成立しない。3つの層を同時に再設計する必要がある。
| 層 | 中身 | 課題 |
|---|---|---|
| 人 | 後継者・新規参入者 | 親元継承 vs 第三者継承の選択、住居・就労条件 |
| 価値 | 事業の付加価値・ブランド | 市場価格依存からの脱却、プレミアム化 |
| 販路 | 売り先・顧客 | 地域内 → 都市部・海外、ToB・DtoC への転換 |
「人」だけ引き継いでも、価値と販路の更新がなければ続かない。3つの層を統合的に再設計する伴走者 ( 地域商社・行政・コンサル ) が必要。
4. アクター別の役割
- 国: 新規就農給付金・第三者承継支援、農地法整備
- 道・市町村: 移住・就農相談・住宅支援、地域別の就農パッケージ
- JA・漁協・森林組合: 技術指導・販路提供・機材共同利用
- 大学・専門学校: 担い手育成・研究連携・起業教育
- 民間 ( 地域商社 ): 価値再設計・プレミアム販路・ToB マッチング
- 金融: 承継資金・新規参入融資・クラウドファンディング
- 地域住民: 移住者・新規参入者の受け入れ・関係構築
5. 道内・全国の参考事例
更別村・超なまら本気スマート農業
AI・ロボット・ドローンで担い手減少下でも大規模農業を維持する省力化を実証。人不足を技術で補い、若手参入のハードルを下げる試み。
鳥取県智頭町・智頭杉ブランド化と森のようちえん
林業の担い手と関係人口を同時に育成。「働く担い手」だけでなく、「関わる人」を増やす多層構造。
全国新規就農相談センター ( 全国農業会議所 )
親元就農・第三者継承のマッチング。承継のミスマッチ解消を全国規模で支援。
6. 取り得る打ち手
短期 ( 1-3年 )
- 事業性のある経営体の早期把握 ( 自治体・JA の連携 )
- 第三者承継マッチングの強化 ( 地域別の窓口 )
- 新規参入者の住居・就労支援パッケージ整備
中期 ( 3-10年 )
- 地域商社による価値再設計・販路開拓の伴走
- スマート農業・漁業の標準化と担い手減対応
- 教育機関での担い手育成プログラム拡充
長期 ( 10年以上 )
- 事業・価値・販路の三層を統合する承継エコシステム
- 一次産業を「魅力的な職業選択」として若年層に提示
- 外部資本・関係人口を巻き込んだ地域産業基盤
7. わたしたちにできること
一次産業の担い手不足は「農家・漁師・林業従事者の問題」ではない。日常の消費・関わり方で、わたしたちが支えられる部分は多い。
消費者として
- 道産食材・道産加工品を意識的に選んで購入する
- ふるさと納税で道内自治体の生産者支援プロジェクトを選ぶ
- 産直・直売所・道の駅で生産者と直接つながる買い物
- プレミアム価格を「適正価格」として受け入れる ( 安さ追求から離れる )
企業・組織として
- 従業員食堂・社内食で道産食材の利用率を上げる
- 新規参入者の伴走・販路提供・共同開発の機会を作る
- 地域商社・一次産業支援の取り組みに法人寄附・クラウドファンディング参加
関わる人として
- 観光・体験で一次産業の現場に触れる ( 農業体験・漁業体験・森林ツアー )
- SNS で道内生産者の取り組みを発信・シェア
- 中長期的には移住・二地域居住で関係人口になる選択肢
まとめ: 一次産業の担い手不足は、事業・価値・販路の三層を統合する仕組みづくりが鍵。そしてわたしたち消費者・企業・関わる人の日常の選択が、地域の生産基盤を支える基礎となる。