衰退地域の復活を分けるのは人材の教育水準 - 6カ国1,993都市の研究

日本を含む6カ国1,993都市の脱工業化を分析した研究は、 製造業依存から立ち直れた都市を分けた最大の要因が大卒人材の比率だと示す。 大卒比率が1ポイント高いと、 その後の雇用成長が10年あたり約3ポイント高い。 米国のラストベルトは復活率17%、 ドイツは約50%。

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研究

工場が去った街は、 なぜ立ち直れる街と立ち直れない街に分かれるのか。 日本を含む6カ国、 1,993都市の脱工業化を分析した研究は、 その分岐を決めた最大の要因を名指しする。 大卒人材の比率だ。 工場でも補助金でもない。

本稿は Gagliardi, Moretti and Serafinelli の研究を解説し、 北海道の産業転換と人材課題に引きつけて読む。

1. 研究の概要

Gagliardi, Moretti and Serafinelli (2023) は、 日本・米国・英国・ドイツ・フランス・イタリアの6カ国、 1,993都市を対象に、 製造業への依存から脱工業化していく過程を分析した。 立ち直れた都市とそうでない都市を分けた要因を、 各都市の産業構成や人材構成から統計的に特定している。出典: Gagliardi, Moretti & Serafinelli, The World’s Rust Belts, NBER w31948 ↗

2. 主要な発見

指標研究が示した値
回復を分けた最大の要因大卒人材の比率
大卒比率 +1ポイントの効果その後の雇用成長が10年あたり約3ポイント高い
米国ラストベルトの復活率約17%
ドイツの復活率約50%

ファクト: 製造業依存から立ち直れた都市とそうでない都市を分けた最大の要因は、 大卒人材の比率だった。 大卒比率が1ポイント高いと、 その後の雇用成長が10年あたり約3ポイント高い。 米国のラストベルトの復活率17%に対し、 ドイツは約50%で、 その差は人材構成にあったと研究は結論する。出典: Gagliardi, Moretti & Serafinelli, The World’s Rust Belts, NBER w31948 ↗

3. なぜそうなるのか

教育を受けた多様な人材が集まる都市は、 ひとつの産業が衰えても、 新しい産業や職種へ移り変わる力が高い。 知識や技能が転用でき、 起業や新規事業の担い手も厚い。 逆に単一の製造業に人材が固定された都市は、 その産業が去ると転換の担い手を欠き、 回復が遅れる。

だから再生の鍵は「工場を呼び戻す」ことよりも、 「多様で教育を受けた人材が住み続けられる街であること」にある、 というのが研究の含意だ。

4. 北海道の地域課題との結びつき

ファクト: 北海道では、 大学等への進学や就職を機に若年層が道外へ流出する傾向が続いている。出典: 総務省・住民基本台帳人口移動報告 ↗

推論: この研究に従えば、 地域再生の要は工場誘致や補助金よりも、 教育を受けた多様な人材が住み続けられる環境をつくれるかにある。 半導体をはじめ新産業の集積が進む局面では、 誘致そのものより、 その人材が定着し次の産業へ転換していける基盤 ( 教育・住環境・仕事の多様性 ) を厚くできるかが、 長期の回復力を左右する可能性が高い。

関連する地域課題: 新産業の創出中心市街地の衰退リスキリング

5. 射程と留保

分析対象は主に一定規模以上の都市であり、 過疎地や小規模自治体にそのまま当てはまるわけではない。 「大卒比率」は人材の教育水準を測る代理指標であり、 学歴そのものより、 多様で転用可能な技能を持つ人材の厚みが本質だと読むべきだ。 日本の6都市を含む分析だが、 個別都市の事情までは本稿の射程を超える。

6. 現場と政策への示唆

  • 産業誘致の成否を「立地したか」でなく、 「多様な人材が定着し次の産業へ移れるか」で評価する。
  • 若年層の道外流出に対し、 出さない努力だけでなく、 一度出た人材が戻り住み続けられる仕事と環境を設計する。
  • リスキリングを、 単発の研修でなく、 産業転換の担い手を厚くする長期投資として位置づける。