定着率では測れない - 移住定住で「持続性を高めるためのポイント」を見る視点
「何人来たか」「何%残ったか」では地域に何が残るかを測れない。事業・関係・仕組みの3資産で評価する視点と、評価軸を組み替えると施策がどう変わるかを整理。
北海道は移住希望地として全国上位に位置する一方、人口減少は全国平均の倍速で進む。問題は「人が来ない」ではなく、「人が来た後、何が地域に残るか」を測る軸を持っていないことだ。
本稿では、事業・関係・仕組みの3資産で評価する視点を提案する。
- 1. 数値で見る現状
- 2. 論点 - 何を評価軸にするか
- 3. 3つの資産で評価する
- 4. 評価軸を組み替えると施策はどう変わるか
- 5. 参考事例 - 海士町
- 6. 道内文脈への落とし込み
- 7. 取り得る打ち手
- 8. わたしたちにできること
1. 数値で見る現状
北海道は移住希望地として全国上位だが、社会増減はマイナスが続く。
| 指標 | 数値 | 出典・備考 |
|---|---|---|
| 2025年人口 ( 速報 ) | 約495万人 | 500万人割れ・戦後初 ( 2025国勢調査 ) |
| 2020 → 2025人口減少率 | 約 -4.2% | 全国平均 約 -2.0% |
| 移住希望地ランキング | 全国2位 | ふるさと回帰支援センター2023 |
| 道内移住相談件数 | 年1万件超 | 北海道庁 移住交流ポータル |
| 協力隊任期終了後定着率 ( 全国 ) | 約65-70% | 総務省 令和5年度調査 |
つまり「来たい人」は多い。だが、人口減少は止まらない。
「年間転入者数」「移住相談件数」「定着率」を施策の評価軸にしてきたが、これらは本質的な問いに答えていない。
2. 論点 - 何を評価軸にするか
施策評価の選択肢を整理する。
- 「何人来たか」: 入口の数しか測れない。質や継続性を捉えられない。
- 「定着率」: 人の流動を止めようとする発想になりやすい。3割は離れる前提の制度設計 ( 協力隊 ) を、3割を悪と見なしてしまう。
- 「残った資産」: 人が変わっても回る仕組みを作る発想に向かう。本人が離れても地域には残るものが見える。
論点: 移住政策の目標は「人を地域に固定すること」ではなく、「人を通じて地域に資産を蓄積すること」ではないか。
評価軸が変わると、何を施策の成功と呼ぶかが変わる。順序を間違えると、人を呼ぶことだけが上手な自治体が量産される。
3. 3つの資産で評価する
移住者が地域に残せるものは、大きく3種類に分けて整理できる。
| 資産種別 | 中身 | 残る条件 | 属人化の失敗パターン |
|---|---|---|---|
| 事業資産 | 起業した事業、継業した店舗、加工所 | 担い手交代の仕組みと収益化 | 個人事業のまま属人化・離脱で消失 |
| 関係資産 | 外部人脈、[関係人口](/glossary.html#term-related-population)、企業・大学連携 | 関係を地域組織 ( NPO・公社等 ) に紐づける | 本人が全部抱える・名刺ホルダー化 |
| 仕組み資産 | お試し滞在運用、相談窓口、マッチング | 文書化と運営チーム化 | 担当が変わると消える・ノウハウの口頭継承 |
3つの資産は単独でなく、相互に補完する。
- 事業資産は関係資産を呼び込む ( 新店舗が外部メディア・ファン・取引先を連れてくる )
- 関係資産は事業資産を回す ( 外部スキル・資金が地域内に流れ込む )
- 仕組み資産は両者を持続させる ( 個人退出後の引き継ぎを可能にする )
4. 評価軸を組み替えると施策はどう変わるか
「定着率重視」と「持続性を高めるためのポイント重視」では、施策の優先順位が変わる。
| 領域 | 定着率重視のとき | 持続性を高めるためのポイント重視のとき |
|---|---|---|
| 住宅 | 家賃補助・住宅手当 | 起業可能な物件改修・拠点整備 |
| 仕事 | 雇用先紹介・求人マッチング | 事業承継伴走・新事業の立ち上げ支援 |
| 関係 | 移住者交流会・同期作り | 外部組織との橋渡し・関係人口制度化 |
| 評価指標 | 年間転入数・定着率 | 3年後に残った事業・関係・仕組みの点検 |
| 離脱への態度 | 失敗扱い | 資産が残れば成功扱い |
5. 参考事例 - 海士町
島根県海士町 ( 人口約2,300人 ) は、「定着率」より「教育を地域の核に育てる」という持続性を高めるためのポイントを17年積み上げてきた。
- 2008年: 島前高校魅力化プロジェクト開始
- 廃校危機の県立高校を地域・行政・学校で一体運営
- 島外から生徒を呼ぶ「島留学」と地域協働カリキュラムを展開
- 卒業生ネットワーク・教員の知見・地域住民の関わり方が「資産」として蓄積
数値で見ると人口減少は続いている。だが、教育という核は地域に深く残った。神山町 ( 徳島・4,800人 ) の15年の長期事例については、姉妹記事「17年、15年継続する町に共通するもの」で深掘りする。
6. 道内文脈への落とし込み
道内179市町村のうち、人口減少率が全国平均 ( -2% ) を上回るのは9割以上 ( 2020 → 2025国勢調査速報 )。短期的に「人を呼ぶ」発想だけでは追いつかない。
ただし、いくつかの自治体は転換を始めている ( 取り組み内容は公開情報からの編集部要約 )。
- 上士幌町 ( 十勝 ): 子育て世代の住宅・保育環境整備と、ふるさと納税対象事業の育成を二段構えで運用
- ニセコ・倶知安 ( 後志 ): 観光と移住の境界がない地域社会で、外資・外国人雇用主が「事業資産」を蓄積
- 厚真町 ( 胆振 ): 震災後復興と移住政策を融合し、起業型支援を強化
完璧な事例ではない。だが、どの自治体も「人を呼ぶ」を超えた仕組み設計を試みている共通点がある。
7. 取り得る打ち手
短期 ( 1-3年 )
- 評価指標に「3年後に持続性を高めるためのポイントの数」を追加 ( 既存指標と併走 )
- 移住者の事業化・仕組み化を伴走する窓口を作る
- 「残すもの」を本人に着任時に定義させる ( 地域おこし協力隊で先行可能 )
中期 ( 3-10年 )
- 関係人口を制度化 ( 寄附者リスト・体験訪問者の CRM 化 )
- 自治体内の知見継承の仕組みを文書化・標準化
- 都市部・海外との企業・大学連携を、地域組織 ( NPO・公社 ) に紐づける
長期 ( 10年以上 )
- 1つの核 ( 教育・食・自然等 ) を中心に、資産が蓄積する場を作る
- 評価指標を行政内で標準化し、首長・部長層の判断軸として定着させる
- 「定着率では測れない」を町内のコンセンサスにする ( 議会・議事録・計画書で言語化 )
8. わたしたちにできること
移住定住の評価軸転換は、行政や自治体だけの仕事ではない。日常の関わり方や情報発信で、わたしたちが支えられる部分は多い。
個人として
- 移住経験者の取り組みを SNS で発信・シェア
- ふるさと納税で移住支援・関係人口プロジェクトを選ぶ
- 観光・二地域居住で地域と継続的に関わる
- 「定着率」より「残った資産」で地域の取り組みを見る
企業・組織として
- 副業・関係人口・二地域勤務の制度導入
- 移住者・新規参入者の伴走・起業支援
- 都市拠点と地方拠点の人材交流
まとめ: 移住政策の目標は「人を地域に固定すること」ではなく、「人を通じて地域に資産を蓄積すること」。評価軸を組み替えれば、住宅補助より起業伴走、定着率より資産点検、という施策の組み替えが自然に起きる。