北海道の鳥獣対策、 『殺す』 で終わらせない - ジビエ ・ 6次化 ・ サーキュラーで見直す現場
道内のシカ駆除は2023年度で年間約13万頭、 鳥獣被害は2023年度で約47億円。 一方で ジビエ処理量はエゾシカ駆除数の1割強 ( 2024年時点 ) に留まり、 大半は埋設 ・ 焼却で消える。 ハンター ・ 猟友会 ・ 新規参入者の視点から、 『殺す → 活かす』 への転換に何が要るかを実態調査ベースで整理する。
北海道の鳥獣対策は「駆除しても被害が減らない」段階にある。 鍵は殺すことの目的化をやめ、 活かす側の経済循環と担い手育成を一体で設計し直すこと。
- 論点: 対策の成否を駆除数で測るか、 個体数管理 ・ 経済循環 ・ 担い手育成の3指標で測るかが分岐点
- 根拠: 駆除は年間規模で続くのに被害額は10年ほぼ横ばい、 処理に回るシカは駆除総数の1割強で大半は処分
- 示唆: 認証 ・ 流通 ・ 複合事業 ・ 人材育成を束ねれば駆除単線をサーキュラーへ転換できる余地が大きい
道内の現状を捕獲 ・ 被害 ・ 担い手 ・ 処理 ・ 市場の数値で押さえたあと、 駆除数偏重の評価軸を問い直す。 次に現場資産を設備 ・ 人材 ・ 関係 ・ 規範の4種で整理し、 何が残り何が消えるかを示す。 長野 ・ 兵庫 ・ 米国 ・ NZの事例から制度と流通の型を引き、 道内へのエリア別 ・ 立場別の応用に落とす。 各章に公的データと事例、 将来構造についての推論が配置され、 具体数値と事業案は本文にある。
道内のエゾシカ駆除は2023年度で年間約13万頭。 ヒグマ ・ アライグマ ・ キツネ ・ カラス ・ エゾライチョウ 等の捕獲も合計で数万頭規模。 一方で鳥獣による農林業被害は2023年度で年間約47億円、 過去10年でほぼ横ばい。 「駆除しても被害が減らない」 という構造が定着している。 その根本に 「殺すことを目的化した鳥獣対策」 と 「殺した先の使い道が制度的に細い」 という二重の問題がある。 ハンター ・ 猟友会 ・ 新規参入者の視点から、 ジビエ ・ 6次化 ・ サーキュラーで現場をどう設計し直せるかを、 公的データと現場の論点で整理する。
1. 道内の現状
数値1・北海道のエゾシカ捕獲数は 2023年度で約13万頭 ・ 過去5年は10-15万頭で推移。 ピーク時 ( 2017年度 ) の約14万頭からはやや微減だが、 推定生息数は依然70万頭超で 「個体数管理」 としての効果は限定的。出典: 北海道庁 環境生活部 エゾシカ対策 ↗
数値2・道内の鳥獣による農林業被害額は 2023年度で約47億円。 内訳はエゾシカが約40億円 ( 85% ) 、 ヒグマ約3億円、 アライグマ約2億円、 その他 ( キツネ / カラス / 鳥類 等 ) 約2億円。 直近10年で被害総額はほぼ横ばい。出典: 北海道庁 農政部 ↗
数値3・道内のハンター ( 狩猟免許所持者 ) は2023年度で約7,500人 ・ 過去20年で半減。 平均年齢は60代後半、 新規免許取得者は年間300人前後だが減少傾向。 一人あたりの担う駆除数は増加し、 現場負担は重い。出典: 北海道庁 自然環境局 ↗
数値4・道内のシカ肉処理施設は2024年時点で約40箇所 ・ 処理頭数は年間約16,000頭で、 エゾシカ駆除数 ( 2023年度 約13万頭 ) に対して約12%。 ジビエ販売に流れるのはそのうち約半数 ( 約8,000頭 ) で、 残りは ペット食 / 飼料 / 廃棄。 7割以上のエゾシカは 埋設 ・ 焼却処分される。出典: 農林水産省 ・ 鳥獣被害防止計画 ↗
数値5・道内のシカ肉ジビエ市場は2024年時点で約20億円規模と推計 ・ 主に高級レストラン / 道内宿泊施設 / ふるさと納税向け加工品 。 ペット食 ( 犬用ジャーキー等 ) の市場は急成長中で、 シカ革 / 角 / 骨 等を活用する事業者も増えつつある。出典: 農林水産省 ジビエ流通 ↗
仮説: 北海道の鳥獣対策が 「駆除しても被害が減らない」 状態を脱せない最大の原因は、 「駆除→処分」 が単線になっていて、 「活かす」 側の経済循環が薄いこと。 ハンター ・ 猟友会 ・ 新規参入者がジビエ ・ 6次化を持続的にやるための制度 ・ 流通 ・ 設備が、 現場の駆除量に追いついていない。
推論: 2028-2030年に向けて、 道内ではジビエ処理量の倍増 ( 16,000頭 → 30,000-35,000頭 ) と、 シカを起点としたサーキュラー経済 ( 食 / 革 / 角 / 骨 / ペット食 / エコツーリズム ) が中心政策に組み込まれる。 一方でハンター層の高齢化と新規参入の伸び悩みが続けば、 「処理したくても獲る人がいない」 構造に逆転する。
2. 論点
鳥獣対策の目的を 「駆除数」 で測るか、 「個体数管理 + 経済循環 + 担い手育成」 の3指標で測るか。 駆除数だけを追うと、 ハンターの疲弊 ・ ジビエの未活用 ・ 担い手の枯渇が同時進行する。 「殺す → 活かす」 の転換は、 単なる倫理の問題ではなく、 制度設計 ・ 流通インフラ ・ 人材育成の総体的なリデザインを要求する論点。
3. 持続性を高めるためのポイント
鳥獣対策の現場資産を4種に整理。 何が残るか / 何が消えるか。
| 資産種別 | 中身 | 残す条件 | 失敗パターン |
|---|---|---|---|
| 設備資産 | ジビエ処理場 / 解体設備 / 一時保管庫 / 移動式解体車 | 稼働率を維持する処理量と運営者、 行政の長期支援 | 補助金で建てたが運営者なし、 数年で休止 |
| 人材資産 | ハンター / 解体技術者 / ジビエシェフ / 6次化事業者 / 新規免許取得者 | 世代交代の継承プログラム + 収入の見通し | 個人の善意で支えられ、 退任で技術消失 |
| 関係資産 | 猟友会 ・ 自治体 ・ 加工業者 ・ レストラン ・ 道外バイヤー ・ ふるさと納税 | 事業ベースの継続的取引と相互依存の設計 | イベント1回限り、 個人依存の関係で継承されない |
| 規範資産 | '駆除 + 活用 + 担い手育成' を一体に扱う地域文化 | 条例 / 計画 / 教育プログラム / メディアでの可視化 | '殺す' イメージが先行、 若年層の参入意欲低下 |
4. 道外・海外の参考事例
事例1 長野県 ・ 信州ジビエの制度設計
長野県は2010年代から 「信州ジビエ認証制度」 を整備し、 衛生 ・ 流通 ・ ブランディング を統合。 道内の処理施設認証より厳格な品質基準で、 都市部レストラン向け流通を確立。 認証を取った施設は処理頭数 ・ 売上 ともに伸び、 ハンター側の報奨金も上昇。出典: 長野県 ・ 信州ジビエ ↗
仮説: 道内も 「衛生 + ブランディング + 流通」 の三位一体の認証制度を強化すれば、 処理量を倍増できる余地が大きい。
事例2 兵庫県丹波篠山 ・ ジビエ起点の地域ブランド
丹波篠山では 「シカ肉カレー」 「シカ革小物」 「シカ角ボタン」 等、 シカを起点にした多品種の地域ブランドを定着させた。 ハンター ・ 処理場 ・ 加工事業者 ・ 道の駅 が連携した小さなサプライチェーン。出典: 丹波篠山市 ↗
推論: 道内でも 「地域ブランドの中核に鳥獣を据える」 自治体が2027-2030年に増える。 単一の鳥獣ではなく、 シカ / クマ / アライグマ / カラス を 「地域の自然資本」 として捉え、 多品種のサーキュラーを設計する自治体が主流化する。
事例3 海外 ・ 米国 Field to Fork プログラム
米国では狩猟者教育 + ジビエ調理 + 食肉加工 を 「Field to Fork」 として一体プログラム化。 新規ハンターの誘致 + 食文化教育 + 環境保全 を同時に進める。 大学 ・ 自然保護団体 ・ 食関連企業が運営。出典: Field to Fork ・ National Deer Association ↗
事例4 海外 ・ ニュージーランド ・ 国家戦略としての鹿管理
NZは野生鹿を国家規模の害獣として位置づけつつ、 ジビエ輸出 ( 年間8-10万トン ) も主要産業に育成。 ヘリコプター狩猟 ・ 商業ハンター ・ 加工認証施設の連携で、 駆除と経済価値創出を同時実現。出典: NZ Department of Conservation ↗
5. 北海道に応用するなら
ハンター ・ 猟友会 ・ 新規参入者の視点で、 4エリア別 + 立場別の応用整理。
| 立場 / エリア | 状況 | すぐ取れる行動 |
|---|---|---|
| 既存ハンター ・ 道北 / オホーツク | 駆除負担増 + 処理施設不足 | 近隣自治体合同の移動式解体車 + 共同処理場の立ち上げ参画 |
| 既存ハンター ・ 道央 / 道南 | 都市部レストラン需要に近い + 流通余地大 | 札幌 / 函館の高級飲食店との直販 ・ オーダーシステム導入 |
| 猟友会 ・ 全エリア | 高齢化 + 新規参入育成余力不足 | 道庁 / 自治体 / 大学と組んだ新規ハンター育成プログラム運営受託 |
| 新規参入者 ・ 移住 / Uターン | 免許取得後の収入見通しが立たない | 処理施設 + ジビエ加工 + ペット食 + 革加工 の複合事業として組み立てる |
| 女性ハンター / 若年ハンター | 増加傾向だが現場の受け入れに濃淡 | 女性 ・ 若年向け研修 + メンター制度 + 道内コミュニティ形成 |
仮説: 北海道のハンター層は 「個人の趣味 + 自治体報奨金 + 副業」 という構造から、 「複合事業 + 6次化 + 教育コンテンツ」 へ移行する必要がある。 移行が進む地域では新規参入も増え、 進まない地域はハンター不足が深刻化する。
推論: 2027-2030年に道内で 「ジビエ + 革 + 角 + 骨 + ペット食 + 観光体験」 を一体運営する 30-50名規模の地域企業 ( 株式会社 / 一般社団法人 ) が複数立ち上がる。 個人ハンターと企業の中間形態 ( パラレル + 受託 ) が標準化する。
6. わたしたちにできること
個人 ( ハンター候補 / 興味ある人 ) として
- 狩猟免許取得を検討する ( 道内3か所で講習 + 試験 ) ・ 第一種銃猟 / わな猟 / 網猟 から選択
- 道内の処理施設 / ジビエレストラン / 革工房 を訪ねて現場感を掴む
- 道産ジビエを積極的に購入 ・ 試食する ( ふるさと納税 / 通販 / 直営レストラン )
- SNS / note で道産ジビエ ・ サーキュラー鳥獣対策の情報を拡散する
既存ハンター / 猟友会として
- 自分の活動を「狩猟」 ではなく 「地域資源の管理 + 活用」 と再定義する
- ジビエ処理 ・ 革加工 ・ 角細工 ・ ペット食 のうち、 自分が組める1事業を試行する
- 新規ハンター育成 ・ 女性 ・ 若年層への声かけを意識的に始める
- 道庁 / 自治体 / 大学 / 民間事業者との接点を増やす
企業 / 自治体として
- 道内のジビエ処理施設 / 加工事業者 / 革工房 / レストラン とのサプライチェーンを設計
- 鳥獣対策担当部署と農政 ・ 観光 ・ 教育部署 の連携を制度化
- ふるさと納税 / 観光 / 飲食 / 教育 で ジビエ ・ サーキュラーを軸にした地域ブランディング
- 大学 ・ 専門学校との人材育成プログラムに資金 ・ 雇用 ・ 受託案件で関与
7. ビジネスアイデア
道内ジビエ サーキュラー商社
- ターゲット・道内ハンター ・ 猟友会 ・ 処理施設 ・ レストラン ・ 道外バイヤー
- 収益・仕組み・道内のジビエ / 革 / 角 / 骨 / ペット食 を 1事業者に集約 ・ 流通プラットフォーム + ブランディング + 道外 ・ 海外輸出。 取引手数料 + 自社加工品売上
- 組み合わせ・道庁 / 道内処理施設 / JA / 漁協 / 道外バイヤー / ふるさと納税運営
移動式ジビエ処理車 + 共同利用プラットフォーム
- ターゲット・小規模町村 ・ 単独で処理場を持てない自治体 ・ 個人ハンター集団
- 収益・仕組み・移動式解体車を複数自治体で共同保有 ・ ハンターからの予約 + 処理量に応じた利用料。 自治体共同出資 + 国補助金
- 組み合わせ・道庁 ・ 国 ( 農水省 ) ・ 道内市町村会 ・ 民間事業者
ハンター育成 + 副業マッチング
- ターゲット・狩猟免許取得希望者 ・ 移住者 ・ 副業希望者 ・ 自治体 ・ 処理事業者
- 収益・仕組み・新規免許取得サポート + メンター制度 + 副業案件マッチング + 道内移住支援。 受講料 + 自治体委託 + 副業マッチング手数料
- 組み合わせ・道庁 / 自治体 / 大学 / 移住支援組織 / 民間処理事業者
ジビエ + 観光 + 教育の複合体験事業
- ターゲット・道外都市部の家族 ・ 学校団体 ・ 食関連クリエイター ・ 海外観光客
- 収益・仕組み・狩猟同行 + 解体見学 + ジビエ料理 + 革工芸体験 + 自然観察 を1パッケージ。 体験料 + ふるさと納税返礼 + 教育機関向け企画
- 組み合わせ・道内ハンター ・ 処理施設 ・ 宿泊 ・ 観光協会 ・ 学校
編集部が課題から逆算した新規事業 ・ 起業 ・ 投資の方向性 ( 推奨ではなく出発点 ) 。